映画を読む

ドイツ某都市に留学中です。「映画を読む」と題して、観た映画の感想や印象等を淡々と書いていこうと思っています。ネタバレに関しては最低限の配慮はしたいですが、踏み込んだ内容も書くと思うので、気にする方はご注意を。

映画

映画を通してルターを勉強する、その③ 語り直されるルター 敬虔な抵抗者として、あるいは誠実な信仰者として

filmreview.hatenablog.com filmreview.hatenablog.com ルター映画について、その③。詳しいことはその①の記事とその②の記事を読んでいきただきたいのだが、以下では残り二つのルター映画について簡単に書いていきたい。 資金はなくとも、語り直されなければ…

映画を通してルターを勉強する、その② 国民の英雄としてのルター像

filmreview.hatenablog.com 前の記事(「映画を通してルターを勉強する、その①」)で書いたとおり、今年2017年は、マルティン・ルターが教会批判の「95ヶ条の論題」を公表した1517年から500周年、つまりは宗教改革の第一歩目から500周年だということのようで…

映画を通してルターを勉強する、その① 宗教改革500周年とルターという人物の多面性

目次 マルティン・ルターと宗教改革500周年 マルティン・ルターという人物、その生涯 宗教改革者であり、文化史上の参照点としてのルター 映画におけるマルティン・ルター マルティン・ルターと宗教改革500周年 欧米圏の文化について調べたり勉強したりして…

苦境の末に偉大なものが訪れるという、空想のなかの芸術家の神話(ヴェルナー・クリングラー「ソリスト、アンナ・アルト」/Werner Klingler "Solistin Anna Alt" 1944年)

ヴェルナー・クリングラー「ソリスト、アンナ・アルト」(Werner Klingler "Solistin Anna Alt" DE 1944)を鑑賞。 この映画の主演女優であるアンネリーゼ・ウーリヒ(Anneliese Uhlig)がつい先日齢99で亡くなったそうで、その追悼の上映であったようだ。ウーリ…

笑いとともに、プロパガンダの強張りに入るひび(エルンスト・ルビッチ「ニノチカ」/Ernst Lubitsch "Ninotchka" 1939年)

エルンスト・ルビッチ「ニノチカ」(Ernst Lubitsch "Ninotchka" US 1939)を鑑賞。 おおまかな感想、印象 ルビッチらしい、テンポのよい洗練されたラブコメディ。グレタ・ガルボ演じる厳格な共産党員ニノチカが、パリの伯爵レオンとの出会いを通じて変化して…

1910年代のサイレント映画に見る、性別の「らしさ」の揺らぎ

先日、近所の映画館で、クロスドレッシングをモチーフにした1910年代の無声映画を三作品まとめて観ることができた(有難いことにピアノによる生伴奏つき)。以下、それについて書きつつ、性別ごとの「らしさ」という固定観念の揺らぎについて考えてみたい。 …

社会の枠のなかでラディカルに自由であろうとすること(アンドレス・ファイエル「ボイス」/Andres Veiel "Beuys" 2017年)

アンドレス・ファイエル「ボイス」(Andres Veiel "Beuys" DE 2017)を鑑賞。5月ごろからヨーゼフ・ボイスに関するドキュメンタリー映画が公開されていることは知っており気になっていたのだが、近所の映画館で監督のトークセッション付きで上映されるという…

ほんの束の間だけ、絵画のなかできらめくように(ボー・ウィデルベルイ「みじかくも美しく燃え」/Bo Widerberg "Elvira Madigan" 1967年)

ボー・ウィデルベルイ「みじかくも美しく燃え」(Bo Widerberg "Elvira Madigan" SE 1967)を鑑賞。少し前に近所の映画館でウィデルベルイの懐古特集が組まれており、その枠のなかで観ることができた。 おおまかな感想、印象 絵画のなかのような美しき生活を…

破滅のただなかで追想される過去の輝き、そこに向けられる哀悼のまなざし(ジョセフ・フォン・スタンバーグ「嘆きの天使」/Josef von Sternberg "Der blaue Engel" 1930年)

ジョセフ・フォン・スタンバーグ「嘆きの天使」(Josef von Sternberg "Der blaue Engel" DE 1930)を鑑賞。 おおまかな感想、印象 以前記事を書いた「最後の命令」(1928年)以来のスタンバーグ映画。「最後の命令」がアメリカ製作の無声映画だったのに対し…

贖罪と嘘、演出された宥和と人間性の切り詰め(エルンスト・ルビッチ「私の殺した男」/Ernst Lubitsch "Broken Lullaby / The Man I killed" 1932年)

エルンスト・ルビッチ「私の殺した男」(Ernst Lubitsch "Broken Lullaby / The Man I killed" US 1932)を鑑賞。 おおまかな感想、印象 第一次大戦直後を舞台に、戦時中にドイツの敵兵を殺してしまった罪の意識に苦しむフランス人青年の贖罪を描いた映画。…

ささやかな個人の生と、それを脅かす歴史の暴力との重なり合い(片渕須直「この世界の片隅に」/Sunao Katabuchi "In This Corner of the World" 2016年)

前記事にも書いたNippon Connectionで、片渕須直「この世界の片隅に」(Sunao Katabuchi "In This Corner of the World" JP 2016)も鑑賞することができた。さんざんレヴューされた話題作についていまさら、原作も読んでいなければ映画自体も一度しか観てい…

ドイツで観た日活ロマンポルノ三作品、成人映画の枠を利用した多彩な映像表現の模索

日本映画祭における日活ロマンポルノ特集 ドイツ、フランクフルトでは、毎年5~6月にNippon Connectionという日本映画祭が催されている。今年で第17回目になるというこの映画祭では基本的に新しい日本映画が上映されるのだが(今年でいうと「シンゴジラ」や…

装飾となった大衆の上に立つ、冗談のような独裁者(ミハイル・ロンム「ありふれたファシズム」/Mihail Romm "Obyknowenny fašizm / Der gewöhnliche Faschismus" 1965年)

ミハイル・ロンム「ありふれたファシズム/野獣たちのバラード」(Mihail Romm "Obyknowenny fašizm / Der gewöhnliche Faschismus" UdSSR 1965)を、ドイツ語版で鑑賞。5月8日、ドイツにとっての「解放」記念日——日本で言うところの「終戦」記念日——*1に、…

過去の戦争についての語りを、開いたままの問いとして未来に委ねること(ルート・ベッカーマン「戦争の彼方」/Ruth Beckermann "Jenseits des Krieges" 1996年)

先日「夢のなかにいた者たち」についての記事でも書いたが、今月は近所でオーストリア人監督ルート・ベッカーマンの特集が催されおり、彼女のドキュメンタリー映画を幾つか観ることができた。そのなかでも一番印象に残ったドキュメンタリーは、ドイツ国防軍…

記事を書いた映画一覧

記事が増えてきたので、これまで記事を書いた映画の一覧を作ります。 年代順に並べます。 映画の日本語タイトルに関しては、既に日本で公開されているものにはその邦題を、日本で未公開のものには原題を極力そのまま訳したタイトルをつけています。 リンクを…

三つの「エロ・グロ」映画。暴力、欲望、狂騒、死、露悪的なものを一つの映像世界へ昇華すること

露悪的なものを一つの映像世界へ昇華する「エロ・グロ」映画 昨日の記事で、映画について文章を書く際の自分の方針のようなものを書いた。そこに書いた通り、私は、映画を何かしらの現実を写し出すものとして読み、そこから読み取れたことや考えたことを文章…

「映画を読む」ということについて

このブログを始めて三か月が過ぎて、記事もいくつか書いてみて、なんとなく自分なりの原則というか指針のようなものができてきたような気がする。ブログのタイトルも登録時の「Filmreview」から少し前に「映画を読む」に変えたのだが、これは私が今後も映画…

読まれる過去の夢、現前する感情、交錯する空間と時間(ルート・ベッカーマン「夢のなかにいた者たち」/Ruth Beckermann "Die Geträumten" 2016年)

ルート・ベッカーマン「夢のなかにいた者たち」(Ruth Beckermann "Die Geträumten" AT 2016)を鑑賞。本作は、オーストリアの映画祭Diagonale 2016にて最優秀映画賞を獲得している。 ベッカーマンは、ユダヤ系オーストリア人という自らのルーツを主題にした…

1933年のキングコング。美女に殺される怪物よりも恐ろしいものの影(「キング・コング」/"King Kong" 1933年)

ある意味では時代にのって、そしてある意味では時代に逆行して、メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック「キング・コング」(Merian C. Cooper, Ernest B. Schoedsack "King Kong" US 1933)を鑑賞。ちなみに最新版の「キング・コング」は…

レジスタンスと解放の高揚感、転覆する列車と壁を這う蜘蛛(ルネ・クレマン「鉄路の闘い」/René Clément "La Bataille du rail" 1946年)

ルネ・クレマン「鉄路の闘い」(René Clément "La Bataille du rail" FR 1946)を鑑賞。「ヨーロッパ映画におけるレジスタンス」(Widerstand im europäischen Film)なる上映イベントの一環とのこと。それもあって映画前に専門家によるミニ講演もあった。 お…

変わらないはずの知識が、変わりゆく現実に置き去りにされるとき(ミア・ハンセン=ラヴ「未来よ こんにちは」/Mia Hansen-Løve "L’Avenir" 2016年)

ミア・ハンセン=ラヴ「未来よ こんにちは」(Mia Hansen-Løve "L’Avenir" FR/DE 2016)を鑑賞。独仏合作で、観る直前に知ったのだけれど、昨年2016年のベルリン映画祭で銀熊賞を獲得した映画だとのこと。 おおまかな感想、印象 知識と教養のなかに生きる初老…

共和制と独裁のはざま、歴史の暴力に対する抵抗の声(ハンス・ベーレント「ダントン」/Hans Behrendt "Danton" DE 1931)

ハンス・ベーレント「ダントン」(Hans Behrendt "Danton" DE 1931)を鑑賞。観たのは少し前なのだが、忘れないうちに。 おおまかな感想、印象 ドイツ制作で、有声映画としては早い時期のもの。フランス革命勃発後、革命の主要な担い手であったジョルジュ・…

疲れ果てた死神と、この世を離れる門のイメージ(フリッツ・ラング「死滅の谷」/Fritz Lang "Der müde Tod" 1921年)

フリッツ・ラング「死滅の谷」(Fritz Lang "Der müde Tod" DE 1921)を鑑賞。チケットを買おうと並んでいたら、一人のおばさまが余ったらしいチケットを譲ってくれた。どうせ学割で安く買えるのにもらってよいのだろうかと思いつつも、あまり時間もなかった…

演出された英雄譚、正義の英雄が戦った敵とは誰だったのか(クリント・イーストウッド「アメリカン・スナイパー」/Clint Eastwood "American Sniper" 2014年)

クリント・イーストウッド「アメリカン・スナイパー」(Clint Eastwood "American Sniper" USA 2014)を鑑賞。大学関連の上映会だったようで、学生証提示で無料で観られた。そのことを行くまで知らなかったのだが、支払いしようとしたときに受付のお姉さんが…

哲学者たちが世界を変えようと思うとき(ラウル・ペック「青年時代のカール・マルクス」/Raoul Peck "Le jeune Karl Marx / Der junge Karl Marx" 2017年)

ラウル・ペック「青年時代のカール・マルクス」(Raoul Peck "Le jeune Karl Marx / Der junge Karl Marx" BE/DE/FR 2017)を鑑賞。こちらでも3月初めに封切られたばかりだが既にそこそこ話題になっているようで、気になっており早速観に行ってみた。 おおま…

罪のうえの詩情、或いは、アウシュヴィッツの後に幸福であることは許されるのか、という問い(アラン・J・パクラ「ソフィーの選択」/Alan J. Pakula "Sophie’s Choice" 1982年)

アラン・J・パクラ「ソフィーの選択」(Alan J. Pakula "Sophie’s Choice" USA 1982)を鑑賞。 おおまかな感想、印象 浮世離れした若者たちが送る、まるでの詩のなかのように色鮮やかなニューヨーク、ブルックリンの生活。その幸福な生活のなかに、時折顔を…

西ベルリンの若者たちが織りなす、淡い刹那の群像劇(ゲルト・オスヴァルト「雨が降ったその日に」/Gerd Oswald "Am Tag, als der Regen kam" 1959年)

ゲルト・オスヴァルト「雨が降ったその日に」(Gerd Oswald "Am Tag, als der Regen kam" BRD 1959)を鑑賞。未だ戦火の跡が残る西ベルリンを舞台に、ギャング団を組織する若者たちが織りなす群像劇。 簡単なあらすじ 青年ヴェルナーによって率いられるギャ…

化けの皮をかぶって、上っ面をひっぺがす(マーレン・アデ「ありがとう、トニ・エルドマン」/Maren Ade "Toni Erdmann" 2016年)

マーレン・アデ「ありがとう、トニ・エルドマン」(Maren Ade "Toni Erdmann" DE/AT/CH 2016)を鑑賞。国内外で色々な賞をとったり米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたりで、ドイツではそれなりに話題になっており気になっていたが、ようやく観ら…

希望と現実、それでも僕らはもう君たちのなかにいる(「サラバ、不法に生きるということ」/Peter Heller, Saliou Waa Guendoum Sarr "Life Saaraba Illegal" 2016年)

近所で"Africa Alive 2017"という映画祭が催されており、そこで「サラバ 不法に生きるということ」(Peter Heller / Saliou Waa Guendoum Sarr "Life Saaraba Illegal" DE 2016)を鑑賞。ドイツ人監督Peter Heller とミュージシャンでもあるセネガル人助監督…

どろどろしてぬるぬるしたもの、或いはシュールレアリスムの夢(デヴィッド・リンチ「イレイザーヘッド」/David Rynch "Eraserhead" 1977年)

デヴィッド・リンチ「イレイザーヘッド」(David Rynch "Eraserhead" US 1977)を鑑賞。少し前(10日ほど前?)に観たのだが、忘れないうちに感想を書いておく。 デヴィッド・リンチの監督デビュー作。上映プログラムの説明文でも、また上映前の前説のような…

スクリーンの上の、あまりにもあからさまで、あまりにも直接的な現実(ジャンフランコ・ロージ「海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~」/Gianfranco Rosi "Fuocoammare" 2015年)

ジャンフランコ・ロージ「海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~」(Gianfranco Rosi "Fuocoammare" IT/FR 2015)を鑑賞。海を渡る難民の姿を追ったドキュメンタリーで、ベルリン国際映画祭で金熊賞をとった作品ということで、気になっていた。 舞台は…

参加した覚えのないゲームのルールが人生を決してしまうということ(ケン・ローチ「わたしは、ダニエル・ブレイク」/Ken Loach "I, Daniel Blake" 2016年)

ケン・ローチ「わたしは、ダニエル・ブレイク」(Ken Loach "I, Daniel Blake" GB/FR/BE 2016)を鑑賞。 静かで淡々としていて、それでも目を離せない映画だった。一言でいうと、ある初老の男性が社会保障を得るために行政手続きと格闘するという話。ある意…

置き換えられ、繰り返されるモチーフが織りなす喜劇(エルンスト・ルビッチ「極楽特急」/Ernst Lubitsch "Trouble in Paradise“ 1932年)

エルンスト・ルビッチ「極楽特急」(Ernst Lubitsch "Trouble in Paradise" US 1932)を鑑賞。 ドイツ出身のルビッチは、1935年にはナチスによってドイツの市民権を剥奪されてしまうのだが、1920年代には既にアメリカ、ハリウッドでの活動を始めている。そし…

息ができないほどの非人間性のなかでなおも人間らしさと呼びうるものが存在することができるのか(ネメシュ・ラースロー「サウルの息子」/László Nemes "Saul Fia" 2015年)

久しぶり(といっても10日ぐらいぶり)の映画館。ネメシュ・ラースロー「サウルの息子」(László Nemes "Saul Fia" HU 2015)を鑑賞。 これでもか、というほどに息苦しい映画だった。舞台はナチスドイツによって運営されるアウシュヴィッツ・ビルケナウ強制…

近代化された世界における野生、或いはその滑稽さ(ニコレッテ・クレビッツ「ワイルド、わたしの中の獣」/Nicolette Krebitz "Wild" 2016年)

ニコレッテ・クレビッツ「ワイルド、わたしの中の獣」(Nicolette Krebitz "Wild" DE 2016)は、昨年11月中旬に鑑賞。 地味目で上司にバカにされているOLのお姉ちゃんが、ある日自宅の近くで見かけたオオカミに心を奪われ、捕まえ、心を通わせ、同時に自分の…

いつ崩れ落ちるともしれないアイデンティティ(フィオナ・タン「歴史の未来」/Fiona Tan "History’s Future" 2015年)

ここのところ映画館に行けていないので、昨年観た映画と、それと関係する展覧会について。 フィオナ・タン「歴史の未来」(Fiona Tan "History’s Future" EN/DE/FR/NL 2016)は、昨年9月末に鑑賞。フィオナ・タンは日本でも何度か個展を開いたことがある芸術…

残された者のエゴイズム、傷と嘘を携えて生きること(フランソワ・オゾン「婚約者の友人/フランツ」/François Ozon "Frantz" 2016年)

フランソワ・オゾン「婚約者の友人/フランツ」(François Ozon "Frantz" DE/FR 2016)を鑑賞。 独仏合作の映画。事前に読んだプログラムに「喪失と、悲しみと、愛が辿る不思議な道をめぐる時代を超えた反戦映画」と書いてあったこともあり、観る前は(もっと…

歴史の流れの残酷さ、資本主義と文化産業の暴力性(ジョセフ・フォン・スタンバーグ「最後の命令」/Josef von Sternberg "The Last Command" 1928年)

ジョセフ・フォン・スタンバーグ「最後の命令」(Josef von Sternberg "The Last Command" US 1928)を鑑賞。意図せず、無声映画を連夜観ることに。そしてこの時代の映画のもつ力を改めて思い知ることに。 ほとんど予備知識なしで行ったが、これぞ名画、と思い…

架空の絵空事ではなく、現実の映し絵としての、SF映画(フリッツ・ラング「メトロポリス」/Fritz Lang "Metropolis" 1927年)

新年早々、フリッツ・ラング「メトロポリス」(Fritz Lang "Metropolis" DE 1927)を鑑賞。 ドイツ映画史上の古典でありかつSF映画の先駆、というくらいのことは知っていたが、その評判に違わないというか、それ以上のインパクトのある映画だった。 端的に言…