映画を読む

ドイツ某都市にて勉強中です。「映画を読む」と題して、観た映画の感想や印象等を淡々と書いていこうと思っています。ネタバレに関しては最低限の配慮はしたいですが、踏み込んだ内容も書くと思うので、気にする方はご注意を。

「素敵な女性」とともに描かれる、変動する西ベルリンのポートレート(ウィル・トレンパー「甘い戯れ/プレイガール白書」/Will Tremper "Playgirl" 1966年)

ウィル・トレンパー「甘い戯れ/プレイガール白書」(Will Tremper "Playgirl" BRD 1966 88 Min. DCP)を鑑賞。 あらすじ 西ベルリンにやって来た写真モデルのアレクサンドラは、元恋人のヨアヒムに会おうと彼が勤める建設会社のオフィスを訪ねる。しかし仕事…

退廃はもはや秩序のただなかに、時代遅れの良心もまたその汚れのなかに(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー「ローラ」/Rainer Werner Fassbinder "Lola" 1981年)

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー「ローラ」(Rainer Werner Fassbinder "Lola" BRD 1981 115 Min. 35mm.)を鑑賞。 あらすじ 舞台は1950年代の西ドイツ、バイエルン州の小さな町。ここでは地元の土建屋シュッケルトが幅をきかせ、不正な利権を享受してい…

寓話として描かれる不公正、苦しみの担い手としての驢馬(レゾ・チケイジェ、テンギズ・アブラゼ「青い目のロバ」/Tengiz Abuladze, Rezo Tschcheidze "Lurja magdani" 1956年)

レゾ・チケイジェ、テンギズ・アブラゼ「青い目のロバ」(Tengiz Abuladze, Rezo Tschcheidze "Lurja magdani [英題:Magdana's Donkey]" UdSSR 1956 67 Min. 35mm. オリジナル+ドイツ語字幕版)を鑑賞。近所の映画館でジョージア映画特集が開催されており、…

カトリック教会のイメージ戦略と、宗教権力の機能転換のドキュメントとのはざま(ヴィム・ヴェンダース「ローマ法王フランシスコ——自らの言葉を生きる男」/Wim Wenders "Pope Francis: A Man of His Word" 2018年)

ヴィム・ヴェンダース「ローマ法王フランシスコ——自らの言葉を生きる男」(Wim Wenders "Pope Francis: A Man of His Word [Papst Franziskus – Ein Mann seines Wortes]" DE/IT/CH/FR 2018 96 Min. DCP. ドイツ語ナレーション+字幕版)を鑑賞。近所の映画…

宇宙開発時代の啓蒙の弁証法、もつれ合う文明と野蛮、そして神話(スタンリー・キューブリック「2001年宇宙の旅」/Stanley Kubrick "2001: A Space Odyssey" 1968年)

スタンリー・キューブリック「2001年宇宙の旅」(Stanley Kubrick "2001: A Space Odyssey" GB/US 1968 141 Min. 70mm.)を鑑賞。 あらすじ 映画は、謎の物体モノリスと触れ合った類人猿が、大型動物の骨を道具として用いるようになるシークエンスから始まる…

感性の帝国が刹那的であることは、外なる現実との対照において際立せられる(大島渚「愛のコリーダ」/Nagisa Ōshima "L'Empire des sens" 1976年)

大島渚「愛のコリーダ」(Nagisa Ōshima "L'Empire des sens" JP/FR 1976 102 Min. Blu-ray オリジナル+英語字幕版)を鑑賞。 あらすじ 1936年、東京中野の料亭「吉田屋」で、新入りの女中として働き始めた定。彼女は料亭の主人である吉蔵と恋仲になり、二人…

女性の幸せと男性の幸せ、意識の変化の兆しと設えられたハッピーエンド(パウル・マルティン「ハンドルを握る女」/Paul Martin "Frau am Steuer" 1939年)

パウル・マルティン「ハンドルを握る女」(Paul Martin "Frau am Steuer" DE 1939 84 Min. DCP.)を鑑賞。 あらすじ 舞台はハンガリー。ブタペストのドナウ銀行で事務員として働くマリアは、他の銀行で働くパウルからプロポーズを受ける。パウルは当初、マリ…

死に捧げられる者たちのユートピア、普遍的な人間性とその歴史的な制約(オイゲン・ヨーク「モリツリ」/Eugen York "Morituri" 1948年)

オイゲン・ヨーク「モリツリ」(Eugen York "Morituri" DE 1948 88 Min. 35mm.)を鑑賞。 あらすじ 第二次大戦の戦局も極まった頃、ナチスドイツの強制収容所の前に様々な国から連れて来られた収容者たちが並べられ、一人のポーランド人医師によって労働能力の…

アウシュヴィッツにおける道化、あるいは喜劇と悲劇の沈黙(エリック・フリードラー「道化師」/Eric Friedler "Der Clown" 2016年)

大分(一年ほど?)前になるが、エリック・フリードラー「道化師」(Eric Friedler "Der Clown" DE 2016 115 Min. Blu-ray)を鑑賞した。1972年に撮影されたものの未完に終わったジェリー・ルイス「道化師が泣いた日」(Jerry Lewis "The Day the Clown Crie…

自己目的化した権力構造と、その只中に差し込まれる小さな花(アッバス・キアロスタミ「友だちのうちはどこ?」/Abbas Kiarostami "Khane-ye doust kodjast?" 1987年)

数か月前になるが、アッバス・キアロスタミ「友だちのうちはどこ?」(Abbas Kiarostami "Khane-ye doust kodjast?" IR 1987 83 Min. 35 mm. オリジナル+ドイツ語字幕版)を鑑賞。 あらすじ イラン北部のある小学校の教室にて、宿題を指定のノートに書いて…

キングコングは倒れ、男は子猿とじゃれ合い、女は将来を見つめる(マルコ・フェレ―リ「バイバイ・モンキー」/Marco Ferreri "Ciao maschio" 1978年)

マルコ・フェレ―リ「バイバイ・モンキー/コーネリアスの夢」(Marco Ferreri "Ciao maschio" IT/FR 1978 113 Min. 35mm. イタリア語オリジナル+ドイツ語字幕版)を鑑賞。 あらすじ 舞台はニューヨーク、ロングアイランド。ダウンタウンでは人びとが大量発…

抽象的に描かれる戦争、追い立てられる個人(イングマール・ベルイマン「恥」/"Skammen" 1968年)

イングマール・ベルイマン「恥/ベルイマン監督の恥」(Ingmar Bergman "Skammen" SE 1968 103 Min. 35mm, オリジナル+英語字幕版)を鑑賞。 前回の記事でも書いた通り、ベルイマン生誕百周年特集で上映されていた。「フォーロー島三部作」の二作目。 あら…

ベルイマンの60年代後半の三部作における、逃れられない罪連関というモチーフについて

60年代後半の「フォーロー島三部作」 今年2018年の6月14日がイングマール・ベルイマン(Ingmar Bergman, 1918-2007)の生誕百周年ということだそうで、いつも通っている近所の映画館でもこの6月は彼の特集を組んでいる。前回記事を書いた「ペルソナ」もこの枠…

見つめる者と見つめられる者、眼差しを介した自他境界の溶解(イングマール・ベルイマン「仮面/ペルソナ」/Ingmar Bergman "Persona" 1966年)

イングマール・ベルイマン「仮面/ペルソナ」(Ingmar Bergman "Persona", SE 1966 85 Min. 35mm, オリジナル+英語字幕版)を鑑賞。 あらすじ ある日の舞台出演を境に一切の言葉を発さなくなってしまった女優エリザベートと、入院先で彼女の担当となった看…

理想化された身体的思い出としての、故郷(ヨーエ・マイ「帰郷」/Joe May "Heimkehr" 1928年)

ヨーエ・マイ「帰郷」(Joe May "Heimkehr" DE 1928, 126 Min. 35mm)を鑑賞。ピアノ伴奏つき。 あらすじ 戦争捕虜としてロシアで強制労働に従事するドイツ兵リヒャルトは、同室の友人カールに、いつも故郷のことを——とりわけ妻のアンナが待つ彼の家庭のこと…

映画を通してルターを勉強する、その③ 語り直されるルター 敬虔な抵抗者として、あるいは誠実な信仰者として

filmreview.hatenablog.com filmreview.hatenablog.com ルター映画について、その③。詳しいことはその①の記事とその②の記事を読んでいきただきたいのだが、以下では残り二つのルター映画について簡単に書いていきたい。 資金はなくとも、語り直されなければ…

映画を通してルターを勉強する、その② 国民の英雄としてのルター像

filmreview.hatenablog.com 前の記事(「映画を通してルターを勉強する、その①」)で書いたとおり、今年2017年は、マルティン・ルターが教会批判の「95ヶ条の論題」を公表した1517年から500周年、つまりは宗教改革の第一歩目から500周年だということのようで…

映画を通してルターを勉強する、その① 宗教改革500周年とルターという人物の多面性

目次 マルティン・ルターと宗教改革500周年 マルティン・ルターという人物、その生涯 宗教改革者であり、文化史上の参照点としてのルター 映画におけるマルティン・ルター マルティン・ルターと宗教改革500周年 欧米圏の文化について調べたり勉強したりして…

苦境の末に偉大なものが訪れるという、空想のなかの芸術家の神話(ヴェルナー・クリングラー「ソリスト、アンナ・アルト」/Werner Klingler "Solistin Anna Alt" 1944年)

ヴェルナー・クリングラー「ソリスト、アンナ・アルト」(Werner Klingler "Solistin Anna Alt" DE 1944)を鑑賞。 この映画の主演女優であるアンネリーゼ・ウーリヒ(Anneliese Uhlig)がつい先日齢99で亡くなったそうで、その追悼の上映であったようだ。ウーリ…

笑いとともに、プロパガンダの強張りに入るひび(エルンスト・ルビッチ「ニノチカ」/Ernst Lubitsch "Ninotchka" 1939年)

エルンスト・ルビッチ「ニノチカ」(Ernst Lubitsch "Ninotchka" US 1939)を鑑賞。 おおまかな感想、印象 ルビッチらしい、テンポのよい洗練されたラブコメディ。グレタ・ガルボ演じる厳格な共産党員ニノチカが、パリの伯爵レオンとの出会いを通じて変化して…

1910年代のサイレント映画に見る、性別の「らしさ」の揺らぎ

先日、近所の映画館で、クロスドレッシングをモチーフにした1910年代の無声映画を三作品まとめて観ることができた(有難いことにピアノによる生伴奏つき)。以下、それについて書きつつ、性別ごとの「らしさ」という固定観念の揺らぎについて考えてみたい。 …

社会の枠のなかでラディカルに自由であろうとすること(アンドレス・ファイエル「ボイス」/Andres Veiel "Beuys" 2017年)

アンドレス・ファイエル「ボイス」(Andres Veiel "Beuys" DE 2017)を鑑賞。5月ごろからヨーゼフ・ボイスに関するドキュメンタリー映画が公開されていることは知っており気になっていたのだが、近所の映画館で監督のトークセッション付きで上映されるという…

ほんの束の間だけ、絵画のなかできらめくように(ボー・ウィデルベルイ「みじかくも美しく燃え」/Bo Widerberg "Elvira Madigan" 1967年)

ボー・ウィデルベルイ「みじかくも美しく燃え」(Bo Widerberg "Elvira Madigan" SE 1967)を鑑賞。少し前に近所の映画館でウィデルベルイの懐古特集が組まれており、その枠のなかで観ることができた。 おおまかな感想、印象 絵画のなかのような美しき生活を…

破滅のただなかで追想される過去の輝き、そこに向けられる哀悼のまなざし(ジョセフ・フォン・スタンバーグ「嘆きの天使」/Josef von Sternberg "Der blaue Engel" 1930年)

ジョセフ・フォン・スタンバーグ「嘆きの天使」(Josef von Sternberg "Der blaue Engel" DE 1930)を鑑賞。 おおまかな感想、印象 以前記事を書いた「最後の命令」(1928年)以来のスタンバーグ映画。「最後の命令」がアメリカ製作の無声映画だったのに対し…

贖罪と嘘、演出された宥和と人間性の切り詰め(エルンスト・ルビッチ「私の殺した男」/Ernst Lubitsch "Broken Lullaby / The Man I killed" 1932年)

エルンスト・ルビッチ「私の殺した男」(Ernst Lubitsch "Broken Lullaby / The Man I killed" US 1932)を鑑賞。 おおまかな感想、印象 第一次大戦直後を舞台に、戦時中にドイツの敵兵を殺してしまった罪の意識に苦しむフランス人青年の贖罪を描いた映画。…

ささやかな個人の生と、それを脅かす歴史の暴力との重なり合い(片渕須直「この世界の片隅に」/Sunao Katabuchi "In This Corner of the World" 2016年)

前記事にも書いたNippon Connectionで、片渕須直「この世界の片隅に」(Sunao Katabuchi "In This Corner of the World" JP 2016)も鑑賞することができた。さんざんレヴューされた話題作についていまさら、原作も読んでいなければ映画自体も一度しか観てい…

ドイツで観た日活ロマンポルノ三作品、成人映画の枠を利用した多彩な映像表現の模索

日本映画祭における日活ロマンポルノ特集 ドイツ、フランクフルトでは、毎年5~6月にNippon Connectionという日本映画祭が催されている。今年で第17回目になるというこの映画祭では基本的に新しい日本映画が上映されるのだが(今年でいうと「シンゴジラ」や…

装飾となった大衆の上に立つ、冗談のような独裁者(ミハイル・ロンム「ありふれたファシズム」/Mihail Romm "Obyknowenny fašizm / Der gewöhnliche Faschismus" 1965年)

ミハイル・ロンム「ありふれたファシズム/野獣たちのバラード」(Mihail Romm "Obyknowenny fašizm / Der gewöhnliche Faschismus" UdSSR 1965)を、ドイツ語版で鑑賞。5月8日、ドイツにとっての「解放」記念日——日本で言うところの「終戦」記念日——*1に、…

過去の戦争についての語りを、開いたままの問いとして未来に委ねること(ルート・ベッカーマン「戦争の彼方」/Ruth Beckermann "Jenseits des Krieges" 1996年)

先日「夢のなかにいた者たち」についての記事でも書いたが、今月は近所でオーストリア人監督ルート・ベッカーマンの特集が催されおり、彼女のドキュメンタリー映画を幾つか観ることができた。そのなかでも一番印象に残ったドキュメンタリーは、ドイツ国防軍…

記事を書いた映画一覧

記事が増えてきたので、これまで記事を書いた映画の一覧を作ります。 年代順に並べます。 映画の日本語タイトルに関しては、既に日本で公開されているものにはその邦題を、日本で未公開のものには原題を極力そのまま訳したタイトルをつけています。 リンクを…